自己肯定
最近人づきあいが面倒くさい。朝起きると身体がだるくて、なかなか起き上がれない。病気ではないのに、何か変だなと感じることはありませんか? 自律神経の乱れや、ストレスにより同じような症状を感じることがありますが、それ以外にも「自己肯定感」が関与しているかもしれません。
2019年に内閣府が行った「子ども・若者白書」調査によると、諸先進国と比べ日本の子供は「自己肯定感」が低く、欧米など6か国との比較では、最も低い結果となりました。調査対象は2018年11~12月に満13~29歳までの男女に実施したものです。
この結果によると、「自分自身に満足している」が45.1%、「自分には長所があると感じている」が62.3%と、同時に実施した韓国、アメリカ、イギリス、ドイツ、フランス、スウェーデンの回答と比較すると、もっとも低い実態にあったほか、2013年度の調査よりもさらに低下しており、日本人の若者たちの「自己肯定感」の低下が進んでいます。
私たちは1日に6万回の思考を行っていますが、そのうちの約80%、約4万5000回が、ネガティブな思考と言われています。ネガティブな考えを持つことが悪いことではありません。ネガティブな思考は失敗や危険から遠ざけ、助けてくれる大切な信号です。しかし問題は、その信号を受けたときに自己肯定感が低い場合です。新しいことにチャレンジしようと思っても、「どうせまた失敗する」とすぐ行動にブレーキをかけてしまい、後ろ向きの判断で、行動が消極的になってしまいます。また対人関係においても自分や周囲に対するネガティブな感情が高まり、「自動思考の罠」という負のループに陥ってしまい、コミュニケーションを上手にとることが出来なくなります。
― 「自己肯定感」とは? ―
自己肯定感「セルフエスティーム(self-esteem)」は「自己肯定感、自尊心、自尊感情、自己評価、自己有用感、自己重要感」と日本語訳されます。文字とおり「自己」を肯定・認める感覚です。必要以上に過大評価することでも、自意識過剰となることでもありません。自身の良い部分や悪い部分すべてを受け入れられている状態です。日本では、慎ましさや謙虚さを美徳としていますが、それと「自己肯定の低さ」とは異なります。自己肯定は、幼少期の周りからの言動が影響していると言われています。小さいころから親に褒められたことが無い人は、「自分には愛される資格がない」や、「ダメな人間なんだ」という思いが根底に根付いてしまいます。また、両親の仕事や家事を手伝うことで愛される機会多かった人は、「役に立たない自分は愛されない」「わがままを言ってはいけない」「自分のことは自分でしなくてはいけない」と自己犠牲の上に自分の価値を見出してしまうのです。
― 「自己肯定感」の低い人4つのタイプ ―
また、自己肯定感の低い人の行動には特徴があり、様々なタイプがあります。
{逃避タイプ}内にこもる行動派
・努力しない、本気を出さない
・無関心を装う
・気軽に味わえる楽しさを追求する
・いわゆる良い人を演じる
自分にとって都合の悪いことには、興味がない反応を示します。一見、楽しさを追求している、気楽で良い人と見えることもありますが、無意識に本気を出して挫折することを回避しようとする心の動きによるものです。本気を出して壁にぶつかり、挫折することを避けているのです。
{あきらめタイプ}内にこもる受身派
・どうせ無理が口癖
・どうせ「自分なんて」と思ってしまう
・褒められるのが苦手
・人と比べて落ち込む
失敗を過度に恐れ、自分の殻に閉じこもってしまうタイプです。人生においても、行動を起こす前からすでに諦めており、言い訳が思考を占領し、悲劇のヒロインに浸ってしまいます。他人を羨み、どうして自分はそうではないのかと思い、落ち込んでしまうのも、このタイプの特徴です。
{比較優位タイプ}外に求める行動派
・自慢話ばかりする
・よく人を批判する
・人にアドバイスしたがる
・強い自己顕示欲
自分には価値があると思う願望が強く、それを確認する為に人と比較し、批判することで自分が優れていると認識したいタイプです。俗にいう「マウンティング」の傾向が強い人といえます。攻撃的で、自信過剰にも見えますが、その裏には「自己肯定感」の低さが潜んでいます。
{くださいタイプ}外に求める受身派
・いつも何か心配している
・人からの反応を過度に敏感になる
・過度に気を使う
・自分より他人を優先して頑張りすぎてしまう
・他人の影響を受けやすく、依存してしまう
一見、自己犠牲により他者へ気持ちが向いているようですが、実はこのタイプの人は、自分に関心が向けられています。他者の目に、自分がどう映っているのか。どう思われているのかを過度に気にしています。人からの称賛や愛情、関心を得ることで、自分を認識しているのです。
これらの特徴は、必ずしも単独で表れるわけではなく、複合的に表れることもあります。例えば過去のトラウマや劣等感により、自分で自分のことを前向きに評価できないとき、人は周囲から認められたいという承認欲求が強くなります。承認欲求は誰もが持っている欲求ですが、自己肯定感が低いままでは、自分で自分を認められないから心が満たされず、欠乏感によって他者からの評価ばかりを求めてしまいます。認められたい欲求がより強くなり、行動が依存的になってしまいます。
発達障害や鬱病などの精神疾患の治療において、治療がなかなか進まない、もしくは改善傾向にあっても途中で行き詰まってしまう方は、自己肯定の低さが根底に潜んでいる可能性があります。逆に、発達障害や精神疾患により対人関係が上手に出来ないことが原因で、自己肯定が低くなるケースもあります。自己肯定感とは、人間が社会生活を送るうえで精神面を左右する、重要な役割を担うのです。
― 「自己肯定感」を高める為には ―
自己肯定感を高めるには、まずは自分自身を認識することが大切です。普段の自身の行動や思考を振り返り、その根底にある自己肯定の低さを自覚することから始めてみましょう。自己肯定の低さからくる言動や思考だとういことを認識することで、客観的に自分自身を見つめることが出来るようになります。
では、自己肯定はどうすれば高めることが出来るのでしょうか。
自分の長所・短所を書き出す
自分の長所や短所を思いつくだけノートに書いてみましょう。また短所には、改善するにはどうすれば良いかを考え、行動に移してみましょう。
親切になりましょう
電車の中で、お年寄りや妊婦さんを見かけたら、進んで席を譲りましょう。親切にすることで、人は幸せホルモン「オキシトシン」が分泌され、幸福感を得ることが出来ます。幸せな気持ちになれるほか、自分自身のことも好きになれます。
成功体験を積む
「自己効力感」「自己信頼感」を高めるには、成功体験の積み重ねが有効です。大きな成功体験が必要なのではなく、小さくても、出来るだけ多くの成功体験を積み重ねましょう。
日記の代わりに、一日の中で自分が出来たことを書き出してみましょう。「朝、時間通りに一人で起きた」「今日の服装が素敵だと褒められた」「仕事に役立つ本を一冊読んだ」など、何でも良いのです。
ポジティブな言葉を選ぶ
人に褒められたとき、「私なんて」と否定的な言葉ではなく、「ありがとうございます」とポジティブな言葉を口にしましょう。また相手に感謝の言葉を述べる際は、「すみません」ではなく「ありがとうございます」と言いましょう。
自己肯定の高い人と一緒にいる
自分の周りに居る、自己肯定の高い人のそばに居ましょう。自己肯定の高い人と一緒に過ごすことで自然と言動や思考は似てきます。逆に、自己肯定の低い人と一緒に居ると、自分の考えや言動もネガティブになってしまいます。自分自身を変えるには、交友関係も見直すことも必要です。
自己肯定感は、小さい頃からの心の蓄積により構成されています。直ぐに考え方が変わるのは難しいですが、一つ一つの積み重ねが、必ず心の変化に繋がります。行動する前から諦めずに、自分を見つめなおし、実践してみましょう。
― 自己肯定感を支える「神経伝達物質」 ―
自己肯定感のサポートに、心のコントロールが重要となります。私たちの感情は、「ノルアドレナリン」「ドーパミン」「セロトニン」の3つの神経伝達物質である(脳ホルモン)のバランスにより影響しています。脳内ホルモンの無数のやりとりの結果、人間の複雑な精神活動が可能となっています。これらの神経伝達物質を味方につけて、安定した精神状態を維持し、ましょう。
<ノルアドレナリン>
神経を興奮させる神経伝達物質で、ストレスに対して怒りや不安などの感情に反応し「意欲、集中力、思考力」を高めます。しかし、不足すると「気力の低下、無関心」など抑うつ状態になりやすく、うつ病の原因にもなります。逆に過剰に分泌されると、イライラやキレやすくなるなど、躁状態を引き起こしやすくなります。
<ドーパミン>
快感や喜びなどの感情に関係する神経伝達物質です。人の強い欲求には「快感を得たい欲求」がありますが、この「快感」を操っているのがドーパミンです。快楽・意欲・食欲・性欲・探求心・動機づけを司っており心地良さに加えて「意欲」も生み出します。過剰な分泌は幻覚・妄想を招くほか、満足感の喪失や、繰り返し過剰分泌されることでギャンブルやアルコール、薬物依存症を招きます。
<セロトニン>
睡眠や体温調節、ホルモンの分泌を司る「セロトニン」ですが、精神の安定に大きく関与しています。セロトニンは、ノルアドレナリンやドーパミンの暴走を抑えコントロールすることで精神的な安定をもたらします。セロトニンは「幸せホルモン」と呼ばれ、セロトニンが正しく分泌されることで心が安定し、幸福感が生まれます。不足するとノルアドレナリンやドーパミンの抑制力が弱まり、パニックや集中力や思考力の低下など、うつ状態に陥りやすくなります。
― 「セロトニン」と「自己肯定」 ―
適切な量のセロトニンが分泌されれば、脳も適切に機能するということになります。セロトニンは脳内で神経から神経への情報の伝達をしています。セロトニン受容体を持つ細胞が広い範囲で存在することから、セロトニンの値が身体的機能とともに、心理的機能をも左右すると考えられています。
セロトニンの分泌が不均衡になる要因として、以下の原因が考えられます。
・セロトニンが十分に分泌されていない
・セロトニン受容体がセロトニンを十分にキャッチできていない
・セロトニンが受容体まで届いていない
・セロトニンの合成材料となるトリプトファン・必須アミノ酸の摂取量が不足している
セロトニンの不足の身体的症状として、便秘・消化障害・光や痛みに過敏になる・糖質(炭水化物)の異常摂取・不眠症・片頭痛などです。精神的症状では、気分の落ち込みなどの鬱症状・認知機能の低下・意欲の減退・自己肯定感の低下などがあげられます。これらの症状が現れたら、セロトニン不足の可能性が考えられます。
~ セロトニンの不足を解消するにはどうすれば良いのでしょうか? ~
(セロトニンの材料を摂ろう)
セロトニンの材料となるトリプトファンを積極的に摂取しましょう。トリプトファンは体内で合成できない必須アミノ酸の一つで、食事やサプリメントを使って毎日摂取する必要があります。また、セロトニンの生成には、トリプトファンの他、ビタミンB6や炭水化物もバランスよく摂取する必要があります。
(カフェインを控えましょう)
カフェインを毎日摂取すると、おおよそ25~30%セロトニン受容体を増加させると言われます。これはセロトニンの増加でなく、カフェインによってセロトニンそのものが減少するため、少ない量でも情報をキャッチできるよう、 受容体のみが増加しているのです。セロトニンの不足を感じた時は、カフェインレスの飲料、もしくは、どうしてもコーヒーなどが飲みたいときは、セロトニンの材料となるトリプトファンを含む豆乳入りの、ソイラテがお勧めです。
(セロトニンの生成を促そう)
リズム運動やガムを噛む、ウォーキングなどで太陽の光を浴びることでセロトニン神経の活性化に繋がります。日光浴は30分程度、ウォーキングやスクワットなどのリズム運動は5分~30分程度、無理の無い範囲で行いましょう。
(オキシトシンの分泌によりセロトニンを活性させよう)
二つ目の幸せホルモンに「オキシトシン」というホルモンがあります。オキシトシンはマッサージやペットとのスキンシップ、ハグなどの抱きしめることで分泌されます。オキシトシンは別名「愛情ホルモン」とも呼ばれ、人が感じる「愛情」に関わっています。オキシトシンの分泌が増えると、脳内のセロトニンも比例して増え、セロトニンの活性を誘発してくれます。
ペットやパートナーが居ない時は、自分でマッサージしたり、自分で自分を抱きしめる(セルフハグ)がお勧めです。セルフハグの時は、自分に励ましや優しい言葉を掛けてあげましょう。
そのほか、脳内の記憶の関連付けを行う神経伝達物質「アセチルコリン」の摂取により、セロトニン、ドーパミン、ノルアドレナリンの分泌を調整し、脳内のホルモンバランスを整えてくれます。